歯科物語シリーズ④ 定着と失敗談編
〜マイクロスコープを「特別」から「日常」へ〜
マイクロスコープを導入したからといって、すぐに臨床が劇的に変わるわけではありません。実際、開業当初は「マイクロスコープは保険外の治療でしか使わないもの」と思われがちでした。しかし私がこだわったのは、保険診療でも自費診療でも関係なく“すべての症例で使い続けること”でした。
最初にぶつかった壁
勤務医時代、私は自腹でマイクロスコープを購入し、勤め先の先生にお願いして置かせてもらいました。ところが最初の壁は「時間」でした。拡大視野で丁寧に処置をすると、従来の倍近く時間がかかります。15分のアポイントで終わっていた根管治療が、1時間以上かかってしまうこともありました。
患者さんからも「なんでこんなに時間がかかるの?」と聞かれることがあり、スタッフからも「スケジュールが詰まってしまう」と不満が出る。今振り返れば当然のことです。当時は「良い治療をしているのだからわかってもらえるはずだ」と思っていましたが、現実はそう甘くありませんでした。
「失敗」をどう糧にしたか
ある時、急患で来られた患者さんにマイクロスコープを使わずに治療したことがありました。すると後日「こないだの治療は前と違って雑に感じました」と言われてしまったのです。これは私にとって大きな気づきでした。
患者さんは拡大視野の細やかな治療を一度体験すると、違いに敏感になる。つまり一貫して使うことが信頼につながると痛感しました。
そこで私は、短いアポイントでは対応できない患者さんには初めから説明し、「マイクロスコープで丁寧に治療するために時間を確保します」と方針を共有するようにしました。治療時間は長くても、その分安心と納得が得られる。結果的にキャンセルが減り、リコール率も上がっていったのです。
スタッフと共に「日常化」する
もう一つの大きな課題は「スタッフの理解」でした。マイクロスコープを使うとアシスタントワークも変わります。吸引の角度、器具の渡し方、記録の撮り方――すべてが細かくなる。最初はスタッフも戸惑っていました。
私はあえて動画を一緒に見て、「ここに唾液が映ってしまっている」「この角度だと患者さんに見えにくい」と振り返りをしました。最初は厳しいと感じたスタッフも、だんだん「自分の仕事が治療の質に直結している」と実感するようになり、今では衛生士もマイクロスコープを使いこなしています。
今でも続く「習慣」
こうして10年以上、私は毎日マイクロスコープを使っています。保険の虫歯治療でも、根管治療でも、インプラントやセラミックでも関係なく。
もちろん今でも失敗はあります。カメラの録画を押し忘れたり、光軸がずれて見づらかったり。けれどその一つひとつの失敗が改善につながり、いまでは**「マイクロスコープがない治療は考えられない」**という状態になりました。
まとめ
マイクロスコープは最初は「特別な治療のための機械」と思われがちですが、実際には毎日の診療にこそ威力を発揮するツールです。
私は失敗や壁を乗り越えながら、保険診療を含めた日常臨床に定着させてきました。
次回のシリーズ⑤では、マイクロスコープを活用した「根管治療の実際」について、臨床例を交えながらお話しします。