歯科物語シリーズ⑤ 根管治療編
〜マイクロスコープで変わる“見える世界”〜
歯科治療の中でも「根管治療(歯の神経の治療)」は、患者さんにとって分かりにくく、同時に歯科医師にとっても難易度が高い分野のひとつです。実際、保険診療では何度も通っても痛みが取れない、何度治療しても膿が出てしまう、といった相談を受けることが少なくありません。その背景には「見えないものを手探りで治療している」現実があります。
マイクロスコープがもたらす最大の価値
根管は直径が0.1〜0.3mmほどしかなく、さらに歯ごとに複雑な分岐があります。肉眼では当然見えませんし、従来のルーペでも限界がありました。マイクロスコープを使うと、20倍以上に拡大し、さらに明るく照らした状態で根管内を観察できます。
例えば、今まで「原因不明」とされていた症例の多くが、実は
- 根管に細かなヒビ(破折)がある
- 根管が複数に分岐しているのに見逃されている
- 古い薬や詰め物が残っていて炎症を繰り返している
といった事実が、拡大視野によって明らかになります。
実際の臨床での違い
ある患者さんは、他院で半年以上「消毒」を繰り返しても治らず、当院に来られました。マイクロスコープで確認すると、肉眼では到底見えないほど小さな“4つ目の根管”が隠れていたのです。そこに感染源が残っていたため、いくら消毒しても改善しなかったのです。見つけ出して適切に処置した結果、数ヶ月で炎症は消失しました。
これは特別な例ではなく、「見えないから治せなかった」症例が「見えることで解決する」という現象が日常的に起こります。
保険診療でも変わらぬスタンダード
私は開業以来、根管治療は保険・自費に関わらずすべてマイクロスコープ下で行っています。理由はシンプルで、「見えない状態で治療する」こと自体がリスクだからです。
根管治療の成功率は一般的に50%前後といわれていますが、マイクロスコープやラバーダムを活用すると、成功率は90%以上にまで向上します。もちろんそれでも全てが治るわけではなく、外科処置や抜歯が必要になるケースもありますが、それは例外です。
患者さんの安心につながる
さらに大きなメリットは、「見えることをそのまま患者さんに共有できる」点です。私は処置を録画・撮影し、治療後にモニターで一緒に確認していただきます。「自分の歯の中で何が起こっていたのか」が視覚的に分かることで、患者さんは納得し、不安が大きく減ります。
まとめ
マイクロスコープを用いた根管治療は、
- 診断の精度を高める
- 治療の成功率を上げる
- 患者さんに安心を提供する
という3つの価値をもたらします。
見えないものを見えるようにすること、それが歯科治療を根本から変える鍵なのです。
次回のシリーズ⑥では、マイクロスコープを活用した「セラミック治療編」について、審美と機能の両立がどのように実現されるかをお話しします。