歯科物語シリーズ⑧ インプラント治療編
〜マイクロスコープが支えるピンポイントの精度〜
インプラント治療は「歯を失った方の最後の砦」といえる大切な治療法です。人工歯根を骨に埋め込み、天然歯に近い噛み心地と見た目を取り戻すことができます。しかし、外科的な処置を伴うため常にリスクと隣り合わせであり、術式の難易度は患者さんごとに大きく異なります。ここで登場するのがマイクロスコープです。実はインプラント治療全般で常時使うものではなく、ピンポイントで欠かせない役割を果たす機器なのです。
1. サイナスリフトとマイクロスコープ
「サイナスリフト」という術式をご存じでしょうか?
これは上顎の奥歯が失われた際に行う骨造成術です。上顎は解剖学的に「上顎洞(副鼻腔の一部)」と隣接しており、骨が薄くてインプラントを支える土台が不足しがちです。1980年代から上顎洞の粘膜を持ち上げ、その下に骨を作るサイナスリフトが広まりました。
ただし、上顎洞粘膜は卵の卵膜のように薄く破れやすく、処置の難易度は非常に高いのです。ここでマイクロスコープが威力を発揮します。直視下で粘膜と骨の境界を確認しながら慎重に剥離することで、安全性と確実性を格段に高めることができます。
2. 抜歯即時インプラントでの活用
もう一つ、マイクロスコープの有効性が発揮されるのが「抜歯即時インプラント」です。これは歯を抜いたその日にインプラントを埋入し、同時に骨や歯肉を再建していく術式です。従来は複数回に分けて行っていた処置を一度で済ませられるため、治療期間を大幅に短縮できます。
ただし、抜歯部位には感染源や細菌が潜んでいることが多く、徹底的な清掃が予後を左右します。マイクロスコープを使えば、肉眼では見えないレベルで骨面や周囲組織をきれいに処理でき、インプラントの長期安定性を高めることが可能です。
3. 精度がもたらす安心感
インプラント治療では「埋入位置の正確さ」と「清潔な環境」が何より重要です。ほんの数ミリのずれが清掃不良や炎症のリスクを招き、長期的な予後に大きな影響を与えます。マイクロスコープはその数ミリ、数ミクロンの世界でドクターの目を補助し、治療の精度を引き上げるのです。
まとめ
インプラント治療全般で常時マイクロスコープを使うわけではありません。しかしサイナスリフトや抜歯即時インプラントといった難易度の高い局面では、**「あるのとないのとでは結果が大きく変わる」**ほど重要な役割を担っています。患者さんにとってインプラントは大きな決断ですが、マイクロスコープを駆使することで、安全性と予知性を最大限に高めることができます。
次回のシリーズ⑨では「審美歯科編」として、マイクロスコープがセラミック治療や前歯の審美領域でどのように力を発揮するかをご紹介します。