個人クリニックに口腔内スキャナーが3台ある理由― デジタル歯科への投資と患者様へのメリット【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「え、スキャナーが3台もあるんですか?」と初診の患者様から驚かれることがあります。トリオス3、アイテロ、プライムスキャン。いずれも500万円を超える機器です。個人クリニックにしては明らかに過剰に見えるこの投資には、明確な理由があります。
この記事では、当院がなぜここまでデジタル設備に投資し続けているのか、それが患者様の治療にどう影響するのかを、院長自身の言葉でお伝えします。
「型取り」という苦痛から患者様を解放したかった
歯科医院の「型取り」が苦手という方は非常に多くいらっしゃいます。口の中にシリコンや石膏系の材料を流し込み、固まるまで数分間じっとしている。嘔吐反射が強い方・歯科恐怖症の方にとっては、この型取りだけで通院をためらう原因になることがあります。
しかし従来の印象材による型取りには、苦痛だけでなく技術的な問題もあります。材料の変形、気泡の混入、採得時のわずかなズレ。これらは補綴物(被せ物・詰め物)の精度に影響し、適合が悪ければ隙間から虫歯の再発や歯周病のリスクが高まります。
口腔内スキャナーはこの問題を根本から解決しました。小型のカメラを口の中でなぞるだけで、数分以内に精密な三次元データが完成します。材料を口に入れる必要がなく、変形や気泡のリスクもゼロです。精度は条件によっては従来の印象材を上回ることが報告されており、補綴物の適合精度の向上にも直結しています。
3台それぞれに異なる「得意分野」がある
なぜ1台ではなく3台必要なのか。それぞれの機種が得意とする領域が異なるからです。
トリオス3(3Shape)― 色彩情報とマルチユース
トリオス3はカラースキャンに優れており、天然歯の色調情報を同時に記録できます。セラミック修復の際に歯の色・透明感・グラデーションを正確にデータとして残すことで、技工士へのカラーコミュニケーションの精度が上がります。また矯正治療の経過観察にも活用しており、治療前・途中・後の歯の動きをデジタルデータとして比較できます。操作性の高さから日常的なスキャンに最も多用している機種です。
アイテロ(Align Technology)― マウスピース矯正との連携
アイテロはインビザライン(マウスピース矯正)との連携に最適化された機種です。スキャンデータをクラウド上のシミュレーションソフトと直接連動させることで、「矯正治療後の歯並びがどうなるか」を治療前に三次元で可視化できます。患者様に「治療後のイメージ」をお見せしながらカウンセリングできることは、治療の目的と方向性を共有する上で非常に重要です。また精度の高いアーチ形態のスキャンは、インハウスアライナー(院内製作マウスピース)の製作にも使用しています。
プライムスキャン(Dentsply Sirona)― 院内CAD/CAM連携
プライムスキャンはDentsply Sironaのセラミック加工システム(プライムミル・セラミック焼成炉)と連携した院内ワークフローに使用しています。スキャンデータをもとにCAD(コンピュータ支援設計)ソフトでセラミック修復物を設計し、そのままCAM(コンピュータ支援加工)でミリングして院内で加工します。従来の技工所への外注と比べて、製作精度を維持しながら患者様の待機時間を短縮できるケースがあります。
スキャナーだけではない ― 院内のデジタル設備全体
口腔内スキャナー3台はデジタル設備投資の一部に過ぎません。当院には以下のデジタル機器が揃っています。
- セラミック加工機(プライムミル)― セラミック修復物の院内ミリング
- セラミック焼成炉 ― ジルコニアの焼結・ガラスセラミックの結晶化
- 3Dプリンター(複数台)― サージカルガイド・プロビジョナル・インハウスアライナー製作
- ダイレクトプリントアライナー対応機 ― 透明マウスピースの直接造形
- 歯科用CT ― 骨の三次元評価・インプラント計画
- デジタル咬合分析ソフト ― 咬合接触の可視化・分析
これらの設備への投資は、院長として正直に申し上げると「キャッシュフローを圧迫するほど」の規模です。なぜそこまでするのか。答えはシンプルで、「技術の進歩をいち早く診療に取り込むことが、患者様への最善の医療提供につながる」と信じているからです。
設備の購入だけでなく、国内外のクリニックやデンタルラボへの見学も積極的に行ってきました。海外の最先端のデジタルワークフローを自分の目で確認し、自院の診療と照らし合わせることで、「何が本当に有効で、何が単なる流行か」を見極める目を養ってきました。
デジタルだからこそできる「インハウスアライナー」
当院のデジタル設備が最も直接的に患者様のメリットになっているのが、インハウスアライナー(院内製作マウスピース矯正)です。
従来のマウスピース矯正(インビザラインなど)は、海外の技工所にデータを送り、製作された一連のマウスピースをまとめて受け取る方式です。一方、インハウスアライナーは院内のスキャナーとプリンターを使ってマウスピースを必要な枚数ずつ院内で製作します。
インハウスアライナーのメリットは費用の抑制だけではありません。「今の歯の動きに合わせて随時調整できる」「治療中に計画を変更しても追加費用が発生しにくい」「急なマウスピースの紛失・破損にも素早く対応できる」という臨床的な柔軟性が大きな強みです。当院では現在、ダイレクトプリントアライナー(透明素材を直接造形する最新機種)も導入しており、より薄く・精密なマウスピースの製作が可能になっています。
デジタルは「説明のツール」でもある
デジタル設備の価値は、治療の精度向上だけではありません。「患者様にわかりやすく伝える」ための道具としても非常に重要です。
例えば矯正治療の相談では、スキャンデータをもとにシミュレーションソフトで治療後の歯並びを動画で表示し、「治療をしたらどうなるか」を実際に確認していただいてから治療を開始しています。インプラント治療では、CTデータを三次元で表示しながら「骨がどのくらいあるか」「どこにインプラントを入れるか」を視覚的に説明できます。
「なんとなく説明を聞いて、よくわからないまま治療が始まった」という経験をされてきた方が少なくありません。当院では患者様が「見て・理解して・納得して」から治療を開始できる環境を作ることを大切にしています。デジタル設備はその環境を支える重要な基盤です。
患者様にとっての具体的なメリットまとめ
- 従来の型取りが不要(嘔吐反射が強い方・歯科恐怖症の方にも対応しやすい)
- 補綴物の適合精度が向上し、虫歯の再発リスクが低下する
- 治療前に「治療後のイメージ」を三次元で確認できる
- 院内加工により、セラミック修復の待機期間が短縮できるケースがある
- インハウスアライナーによる柔軟・低コストのマウスピース矯正が受けられる
- デジタルデータが記録・保管されるため、将来の追加治療や再製作がスムーズ
まとめ ― 設備は目的ではなく、患者様への手段
口腔内スキャナーが3台ある理由は、「最新機器を揃えたい」という目的のためではありません。それぞれの機種の得意分野を使い分け、患者様一人ひとりの治療に最適なデジタルワークフローを選択するためです。
デジタル歯科の進歩は目覚ましく、5年前には不可能だったことが今は当たり前になっています。この流れに乗り遅れることなく、常に最善の選択肢を提供し続けること。それが、当院がデジタル投資を続ける一貫した理由です。
セラミック修復・矯正治療・インプラントをご検討中の方、あるいは「型取りが苦手で歯医者に行けていない」という方も、ぜひ一度ご相談ください。
─────────────────────────────
デジタルで恩恵を受けた症例はこちら
アクティブシニアの方の歯列不正の改善(長年気にされていたスマイルの改善)
子育て中でお仕事されている中全体的に治療した方(デジタル、矯正、インプラント、セラミック)
こもり歯科クリニック
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町1-2-6
東急田園都市線「桜新町」駅西口より徒歩5分
診療時間:9:00〜13:00 / 14:00〜18:00(月〜土)
TEL:03-6809-8086