デンタルダイヤモンド50周年記念号掲載症例から― 一人の歯科医師が「すべてを組み合わせる」意味【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
2026年4月、歯科専門誌「Dental Diamond」の創刊50周年記念特集号に、院長の症例報告が掲載されました。
タイトルは「ハイブリッド矯正とインプラント抜歯即時埋入を行った一症例」。咬合崩壊を起こした40代の女性患者様に対し、ゴムメタルワイヤー矯正・インハウスアライナー・アンカースクリュー・抜歯即時インプラントを組み合わせた「ハイブリッドアプローチ」による咬合再構成の症例です。
この記事では、その症例の概要と、そこから見えてくる当院の診療哲学、そして「一人の歯科医師がすべてを組み合わせる」ことの本当の意味をお伝えします。
この患者様が抱えていた問題
その患者様は40代の女性で、長年にわたる歯列不正と咬合崩壊が複合した状態でした。複数の歯に虫歯・根尖病変(根の先の炎症)があり、歯の傾斜・挺出(過剰に伸びた歯)・欠損が混在しています。インプラントが必要な部位もあり、矯正治療なしには最終的な補綴設計が成立しないという、複数の問題が絡み合った典型的な複雑症例でした。
このような症例に、「虫歯を治す歯医者」「矯正専門医」「インプラント専門医」がそれぞれバラバラに関わることは、実は大きなリスクを伴います。各専門家が自分の領域しか見ない場合、連携がうまくいかず、最終的な噛み合わせが誰も想定していなかったものになることがあるからです。
この問題を防ぐために必要なのは、「全体のゴールを最初に設定し、すべての治療をそこから逆算して設計できる一人の医師」です。
治療の戦略設計 ― ゴールから逆算する
この症例で最初に行ったのは、「理想の咬合のゴール設定」です。「この患者様にとって最も安定した噛み合わせはどこか」を、精密検査(CT・セファロ・咬合器付着)のデータをもとに設定し、そこから逆算して治療の順序と内容を設計しました。
治療の大きな流れは以下のとおりです。
- フェーズ1:感染・炎症のコントロール。根管治療・歯周病治療を優先し、炎症のない安定した口腔環境を作る
- フェーズ2:ゴムメタルワイヤー矯正とアンカースクリューを使い、傾斜・挺出している歯を起こし、スペースを整える
- フェーズ3:矯正の進行と並行して、欠損部位のインプラント治療を計画的に進める(抜歯即時埋入を活用)
- フェーズ4:大きな移動が完了した段階でインハウスアライナーへ移行し、審美的な仕上げと細部の咬合調整を行う
- フェーズ5:咬合の最終確認とセラミック修復による最終補綴の完成
重要なのは、各フェーズが独立して動いているわけではないことです。「矯正でどこまでスペースを作るか」「インプラントの位置と角度はどこに設定するか」「最終的な咬合高径(噛み合わせの高さ)はどこにするか」がすべて連動して設計されています。この連動した設計こそ、一人の医師が全体を担当することの本質的な価値です。
ホープレスティースを矯正のアンカーに活用する
この症例の興味深いポイントのひとつは、「最終的には抜歯することになる歯(ホープレスティース)」を矯正治療の固定源(ホープレスアンカー)として一時的に活用した点です。
最終的に抜いてインプラントを入れる予定の歯も、矯正治療の途中段階では固定源として使うことで、他の歯の移動をより効率的・精密に行えます。「どうせ抜く歯」に治療を施す意味があるのかと思われるかもしれませんが、この戦略によってリスクの少ない治療の順序を組むことができ、全体の治療期間と精度の両立につながります。これは咬合を全体から見ているからこそ立てられる治療計画です。
師匠・吉田拓志先生からの評価
この症例のアドバイザーを務めてくださったのは、7年間指導を受けた師匠・吉田拓志先生です。吉田先生は日本顎咬合学会指導医・東甲信越支部長であり、赤坂で長年包括歯科臨床を実践してきた先生です。
先生からいただいたコメントを一部ご紹介します。
「小森先生はGPでありながら、矯正治療の研鑽を開業後も積み、デジタル機器の導入も積極的に行い、このような複雑な症例を一人で完結できる、いわゆるマルチディシプリナリーを行う、いまの若手が目指す臨床医である」
「GP(一般歯科医)でありながらこのような複雑な症例を一人で完結できる」という評価は、当院が目指してきた診療スタイルを師匠自身が言語化してくれたものです。専門医に分業するのではなく、全体を把握した一人の医師が設計・実行することの価値を、この言葉は正確に表しています。
「完璧でない部分」も正直に発表した
ただし、この症例発表では「うまくいった点」だけを示したわけではありません。正中の不一致・ガイド角の左右差・インプラント埋入深度と補綴形態との関係など、理想から外れた点も率直に記載しています。
限られた時間と患者様の社会的・時間的な背景の中で、「どこまで理想を追求すべきか」という問いは、臨床家として常につきまとうものです。患者様の都合・経済的な現実・治療の侵襲性とのバランスをとりながら、限られた条件の中で最善を尽くす。この現実を正直に示すことが、読む側の臨床家にとっても、そして患者様にとっても誠実な態度だと考えています。
完璧を装う症例報告より、課題も含めて正直に示す発表の方が、医療の進歩に貢献できる。そう信じています。
この症例が示す、当院の診療の全体像
この一症例の中に、当院の診療の要素がほぼすべて含まれています。
- 保険・自費を問わない精密根管治療(マイクロスコープ・ラバーダム)
- CT・セファロ・咬合器付着による包括的な診査・診断
- ゴムメタルワイヤーによる効率的なワイヤー矯正
- アンカースクリューによる難症例への対応
- ホープレスアンカーを活用した戦略的な治療設計
- 院内製作インハウスアライナーによる審美的な仕上げ
- 抜歯即時インプラントによる治療期間の短縮
- GBR(骨造成)との組み合わせ
- セラミック修復による最終補綴
- 日本顎咬合学会指導医としての咬合設計
これらはバラバラな技術の寄せ集めではありません。「患者様のお口を長期的に健康で機能的な状態に保つ」という一つの目標のために統合された、一貫した診療体系です。
こんな方にこそ来ていただきたい
長年の歯科治療の繰り返しに疲れ、根本的に解決したいと思っている方。複数の問題が絡み合っていて、どこから手をつければよいかわからない方。「もう治らない」「抜くしかない」と言われた歯があるが、本当にそうなのか確認したい方。矯正とインプラントの両方が必要かもしれないが、どう進めればよいかわからない方。
当院は、そのような「一般の歯科医院では対応が難しい」と感じている方のための選択肢です。「難しいから専門医を紹介する」ではなく、「難しいから自分が引き受ける」という姿勢で、開業11年・臨床19年の経験とデジタル技術を総動員して向き合います。
桜新町・世田谷区周辺で、複雑な歯科の問題を抱えてお悩みの方は、まずご相談ください。初診でお口全体の現状をスクリーニングした上で、今後の見通しを正直にお伝えします。
※ Dental Diamond 2026年4月号「臨床スクエア ケースフレ&アドバイス」掲載:「ハイブリッド矯正とインプラント抜歯即時埋入を行った一症例」(小森真樹・吉田拓志先生 アドバイス)
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