美容医療に「10年後」はあるか ― 直美リスクと、歯科医師が考える本当の長期的な美しさ【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(臨床歴19年・日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
少し挑発的なタイトルかもしれません。しかしこれは歯科医師として19年間、患者様の口腔内に向き合い続けてきた立場からの、本音の問いかけです。
美容医療のビフォーアフター写真は、SNSに溢れています。施術直後の劇的な変化を見せる投稿は確かに目を引きます。しかし私はいつも思います。「10年後の写真はどこにあるのか」と。
この記事では、近年社会問題にもなっている「直美(直接美容外科)」のリスクと、歯科医師が長期的な視点で考える「本当の美しさ」についてお伝えします。
「直美」とは何か ― SNS時代が生んだ問題
直美とは「直接美容外科」の略で、形成外科や皮膚科などの専門研修を経ずに直接美容外科医になった医師のことを指します。医師免許さえあれば美容外科を標榜できる日本の制度の抜け穴を利用したもので、近年急速に増加しています。
SNSでの集客・低価格での施術・過剰な広告表現。これらが組み合わさって、知識・経験が不十分な医師による施術被害が急増しています。厚生労働省も問題視し始めていますが、規制は追いついていないのが現状です。
「安くて手軽に顔が変わる」という入口から入った患者様が、施術の失敗・感染・神経損傷・顔面の変形という取り返しのつかない結果に向き合うケースが後を絶ちません。
美容医療のビフォーアフターに「10年後」がない理由
美容医療のSNS投稿をよく見ると、ほぼすべてが「施術直後」または「数週間後」のビフォーアフターです。1年後・5年後・10年後の状態を公開している美容クリニックはほとんどありません。
なぜか。それは長期的な経過を追うビジネスモデルになっていないからです。
美容医療の多くは「施術して終わり」です。術後の長期管理・経過観察・問題が起きたときの対処という概念が希薄なクリニックが多い。患者様が10年後にどうなっているかより、今日の施術件数・売上の方が重要というビジネス構造があります。
ビフォーアフターの写真しか出せないのは、10年後の患者様の人生に責任を持っていない姿勢の表れだと私は思っています。
歯科医師が最も大切にしていること
私たち歯科医師が口腔内に人工物を入れるとき、最も強く意識することがあります。それは「この修復物・インプラント・義歯が、いかに長く安定して機能し続けるか」です。
セラミックを入れるとき、私は「この歯が10年後・20年後もそのまま機能しているか」を考えます。インプラントを埋入するとき、「この患者様が老齢になっても、このインプラントが骨の中で安定しているか」を考えます。義歯を作るとき、「この義歯が残った歯列全体を守りながら機能するか」を考えます。
院長として私が持っている究極の目標を正直に言います。
私が入れたセラミック・インプラント・義歯を、患者様に最後まで使い続けていただくこと。人生の終わりまで、口の中でしっかり機能し続けること。極端な言い方をすれば、天国まで持っていってもらうことが、私の目標です。
これは大げさな表現ではありません。歯科治療における「長期的な安定」とはそういうことです。施術直後に美しく見えることより、10年後・20年後も機能していることの方が、はるかに重要です。
長期的な安定のために歯科医師が考えること
①噛み合わせの設計が長期安定を決める
どんなに美しいセラミックを入れても、噛み合わせが適切でなければ数年で割れたり外れたりします。インプラントも同様で、過剰な咬合力が集中すると周囲の骨が吸収してインプラントが脱落します。当院では日本顎咬合学会指導医として、修復物を入れる前に必ず咬合の設計を行います。「きれいに見える」より「正しく噛める」が先です。
②歯周病のコントロールなしに長期安定はない
どんなに精密なセラミックを装着しても、歯周病がコントロールされていなければ歯肉・骨が溶け続け、最終的に歯ごと失います。インプラント周囲炎(インプラント周囲の骨が溶ける病気)も、歯周病コントロールが不十分な環境では起きやすくなります。当院では審美治療の前に必ず歯周環境の整備を行います。
③定期メンテナンスが修復物の寿命を決める
どんなに高品質な材料・精密な技術で作った修復物も、メンテナンスなしでは長持ちしません。プロフェッショナルクリーニング・咬合のチェック・修復物の状態確認を定期的に行うことで、修復物の寿命は大幅に延びます。当院では治療後の定期メンテナンスを診療の一部として位置づけています。
④将来のリスクを見越した治療計画
今の状態だけを見て治療するのではなく、「5年後・10年後にどうなるか」を見越して治療計画を立てることが重要です。例えば神経のない歯が多い方は将来の歯根破折リスクが高いため、先に矯正治療で歯の位置を整え、セラミックで補強しておく方が長期的な安定につながります。当院の治療計画はすべて「将来の予測」を含んでいます。
美容医療で「顔を変えた」後に起きること
歯科医師として特に心配しているのが、美容医療が口腔・歯列・噛み合わせに与える影響です。
- 顎のヒアルロン酸注入・Eライン調整 → 口腔周囲の組織バランスが変化し、噛み合わせに影響することがある
- エラボトックス → 咬筋が萎縮し、噛む力が低下する。歯・顎関節への影響は長期的に評価されていない
- 糸リフト → 顔面組織を引き上げることで口腔周囲のバランスが変わり、笑顔の形・口の開きやすさに影響することがある
- シリコン顎プロテーゼ → 顎骨に直接影響する場所に人工物を入れるため、長期的な骨への影響が懸念される
これらの処置を否定するつもりはありません。しかし「口腔・顎・噛み合わせへの影響」という観点から評価されることはほとんどありません。歯科医師の立場からは、これらの施術が長期的にお口の健康に与える影響を無視できません。
本当の意味で「人生を変える」選択とは
「見た目を変えたい」「もっと自信を持ちたい」という気持ちは、非常に自然なことです。その気持ちに応える方法として、美容医療は一つの選択肢です。しかし私は別の選択肢があると伝えたいです。
歯を治す。噛み合わせを整える。歯並びを直す。口元を美しくする。これらは「健康を取り戻すこと」であり、その結果として見た目が変わります。副作用はありません。10年後も20年後も、その変化は続きます。そして何より、噛めることは生きることに直結します。
美容医療が「今この瞬間の見た目」を変えるとしたら、歯科治療は「これからの人生全体」を変えます。どちらに投資するかは、最終的に患者様が決めることです。しかし選択肢を知った上で選んでほしい。それが、この記事を書いた理由です。
施術直後のビフォーアフターだけで選ぶのではなく、「10年後も続く変化かどうか」を基準に選んでほしい。それが本当の意味での、人生を変える選択だと思っています。
まとめ
- 直美(直接美容外科)による被害が社会問題になっている。SNSのビフォーアフターだけで選ぶことのリスクを知ってほしい
- 美容医療のビフォーアフターに「10年後」がないのは、長期的な患者の人生に責任を持っていない姿勢の表れ
- 歯科医師が最も大切にするのは「入れた修復物が人生の最後まで機能し続けること」
- 噛み合わせ・歯周病コントロール・定期メンテナンスの三位一体が長期安定を支える
- 美容医療が「今の見た目」を変えるとしたら、歯科治療は「これからの人生全体」を変える
「本当に長く続く変化を手に入れたい」という方は、まずこもり歯科クリニックにご相談ください。見た目の改善と健康の回復が同時に実現できる治療計画を、一緒に考えます。
※このシリーズは全7本です。次回は「100万円を美容医療に使う前に考えてほしいこと」をお伝えします。
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