「お口全体を診てほしい」とはどういうことか― 包括歯科臨床と治療計画の考え方【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「痛いところだけじゃなく、全体的に診てもらいたい」「今の状態が全部わかった上で、何から手をつければいいか教えてほしい」――こうしたリクエストを持って来院される方が増えています。
これは非常に的確な問題意識です。実は「どこか一箇所だけ治す」という歯科治療の積み重ねが、お口全体の状態を少しずつ悪化させている原因になっているケースがあります。
「対症療法」の繰り返しが生む悪循環
多くの患者様が経験される典型的なパターンがあります。虫歯が痛む→その歯だけ治療→数年後また同じ歯が痛む→再治療→根管治療→被せ物→また別の歯が……という繰り返しです。
このパターンが続く理由は、「なぜその歯が悪くなったのか」「お口全体の中でその歯はどのような役割を担っているのか」「噛み合わせや歯周病の状態はどうか」という根本的な問いが置き去りにされているからです。
痛みが出た歯だけを治しても、その歯が悪くなった原因(噛み合わせの問題、歯周病のコントロール不足、咬合力の偏りなど)が残り続ける限り、次の歯が悪くなるのは時間の問題です。
包括歯科臨床とは何か
「包括歯科臨床」とは、お口の中を個々の歯の集合として見るのではなく、「一つのシステム」として捉える考え方です。歯・歯周組織・噛み合わせ・顎関節・筋肉、これらは互いに影響し合っています。どこか一箇所に問題が起きれば、必ず他の部分にも影響が波及します。
包括歯科臨床では、治療を始める前に必ず「全体の現状把握」と「ゴールの設定」を行います。現状:今お口の中でどんな問題が起きているか。ゴール:理想の状態はどこか。プロセス:そのゴールに向けて、どの順番で何をするか。この3つを明確にした上で治療を進めます。
「何を治すか」より「なぜ悪くなったのか」を先に考える。これが包括歯科臨床の出発点です。
当院の初診で行うこと
当院では初診時に、以下の診査を標準的に行っています。これは開業当初から変わらないスタイルです。
- 口腔内写真(全顎の写真撮影・歯・歯肉の状態の記録)
- パノラマX線(全顎を一枚で俯瞰する全体像の把握)
- デンタルX線14枚法(全歯を個別に精密に評価)
- 歯科用CT(必要に応じて・骨の三次元評価)
- セファロ(頭部規格X線・骨格的な評価)
- 咬合器付着による咬合分析(現在の噛み合わせの精密評価)
これだけの診査を初診から行うことを「やりすぎでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし当院では、これなしには「全体を診た上での治療計画」が立てられないと考えています。
例えばCTなしにインプラントの適否は判断できません。セファロなしに骨格的な矯正治療のゴールは設定できません。咬合分析なしに、噛み合わせの問題が歯に与えている影響は評価できません。診査は「余分な検査」ではなく、「正確な判断のために必要な情報収集」です。
「どの順番で治療するか」が結果を大きく左右する
包括的な治療計画を立てる上で、治療の順番は非常に重要です。一般的な優先順位は以下のようになります。
- まず炎症・感染のコントロール(歯周病治療・根管治療)
- 次に機能回復(欠損補綴・噛み合わせの回復)
- そして審美・最終修復(セラミック・矯正の仕上げ)
この順番を守らないと、例えば「歯周病が残ったままセラミックを入れた→歯周病が進行して歯ごと失った」「噛み合わせの評価をせずにインプラントを入れた→過剰な咬合力でインプラントが長持ちしなかった」という事態が起きます。
当院では、全体の診査結果を踏まえた上で「今この時点での最適な治療の順番」をご提案します。場合によっては「まずこれだけやって様子を見ましょう」「今すぐ全部やる必要はありません」というアドバイスをすることもあります。それも含めて、全体を見た上での判断です。
「一人の歯科医師が全体を診る」ことの意味
当院では矯正・根管治療・インプラント・歯周治療・補綴すべてを院長が一人で担当します。これは「便利だから」ではなく、包括歯科臨床において一人の医師が一貫して全体を把握し続けることが、治療の質に直結するからです。
複数の専門医が分担して治療を行う場合、情報の連携や治療ゴールの共有が難しくなることがあります。矯正医と補綴医と口腔外科医がそれぞれの専門性で動いた結果、最終的な噛み合わせが誰も思い描いていなかったものになってしまう、というケースも現実に存在します。
一人の医師が「最初から最後まで同じゴールを見ながら」治療を進めることで、こうした連携ミスを防ぐことができます。これが当院の最も重要な強みのひとつです。
まとめ
「全体を診てほしい」というご要望は、実は最も本質的な医療へのリクエストです。当院では開業当初から、包括歯科臨床の考え方を軸に、お口全体を一つのシステムとして診査・診断・治療計画を立てることを大切にしています。長年の歯科治療の繰り返しに疲れている方、今の状態を整理して今後の見通しを知りたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
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