虫歯を10年以上放置する人が多い理由― 放置するとどうなるか、歯科医師が本音で解説【桜新町】
【執筆者】こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(臨床歴19年・日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「気づいたら10年以上、歯医者に行っていなかった」という方は、実は珍しくありません。当院には毎月のように、10年・15年・中には20年以上歯科に行けていなかったという患者様が来院されます。
なぜこれほど多くの人が、虫歯を長期間放置してしまうのでしょうか。そして、放置し続けた結果、歯はどうなっていくのか。臨床歯科医として19年間、数多くの長期放置の患者様と向き合ってきた立場から、本音でお伝えします。
なぜ10年以上放置してしまうのか ― 7つの理由
①痛みがないから
最も多い理由がこれです。虫歯は初期〜中等度の段階では、ほとんど痛みがありません。エナメル質・象牙質の段階では「しみる」感覚があっても我慢できる程度のことが多く、「痛くなったら行こう」と先延ばしにしているうちに何年も経ってしまいます。歯周病はさらに症状が出にくく、骨が大きく溶けるまで自覚症状がないケースもあります。
②歯医者が怖い・嫌いだから
過去の歯科治療でつらい経験をした方が、足が遠のくケースは非常に多いです。「ドリルの音が怖い」「痛かった記憶がある」「何をされるかわからない不安」。これらは決して大げさではなく、歯科医療側が真剣に向き合うべき問題です。当院では静脈内鎮静法(うとうとした状態で治療を受けられる方法)にも対応しており、強い歯科恐怖症の方にも来院いただいています。
③忙しくて時間が取れないから
仕事・子育て・介護。自分のことを後回しにしているうちに、何年も経ってしまうというパターンです。特に子育て中の方・働き盛りの40〜50代の方に多く見られます。「自分のことは後でいい」という思いが積み重なった結果です。
④お金がかかると思っているから
「長年放置しているから、行ったら大変な金額になる」という不安から、逆に行けなくなってしまうケースがあります。確かに放置期間が長ければ治療は複雑になりますが、まず現状を把握することは保険診療の範囲内でできます。「怖くて確認できない」という状況が最も費用を増やします。
⑤引っ越し・転職でかかりつけ医が変わったから
「前の歯医者さんには通っていたけれど、引っ越して新しいところを探すのが面倒で…」というケースも多いです。新しい歯科医院を探すこと自体がハードルになり、空白期間が生まれます。
⑥前の治療が終わらないまま通院が途切れたから
「治療の途中で通院をやめてしまった」という方も少なくありません。仮歯のまま・仮蓋のままの歯が何年も放置されているケースは、臨床の現場では非常によく見られます。仮の処置は長期間の使用を想定していないため、時間が経つほど状態が悪化します。
⑦コロナ禍・感染不安から足が遠のいた
2020年以降、感染リスクへの不安から歯科通院を控えた方が増えました。「落ち着いたら行こう」と思っているうちに数年が経過したというケースも近年増えています。
10年以上放置すると、歯はどうなるか
虫歯の進行
虫歯はエナメル質→象牙質→神経(歯髄)→根の先という順に進行します。10年以上放置した場合、初期だった虫歯が神経まで達している可能性が高く、根管治療(神経の治療)が必要になります。さらに放置が続くと根の先に膿の袋ができ、最終的には抜歯に至ることがあります。
抜歯後は入れ歯・ブリッジ・インプラントで補う治療が必要になります。「虫歯を放置した結果、インプラントが必要になった」という患者様は当院でも珍しくありません。初期の虫歯なら保険診療で数千円で済む治療が、放置の結果として数十〜数百万円の治療になることがあります。
歯周病の進行
歯周病は痛みが出にくいため、10年以上気づかないまま進行しているケースがあります。この期間に歯を支える骨(歯槽骨)が大きく溶け、歯がぐらついている状態で来院される方もいます。重度の歯周病は外科的な治療が必要になり、保存が難しいケースも生じます。また歯周病は糖尿病・心臓病・誤嚥性肺炎との関連が報告されており、全身の健康にも影響します。
咬合崩壊(噛み合わせの崩壊)
歯を失ったまま放置すると、隣の歯が傾いたり対合する歯が伸びてきたりして、噛み合わせが徐々に崩れていきます。この「咬合崩壊」は連鎖的に広がり、最終的にはお口全体の再治療が必要になります。矯正・インプラント・セラミック補綴を組み合わせた大規模な治療になることがあり、費用は数百万円単位になることもあります。
歯の破折(割れ・欠け)
神経を取った歯は水分が失われてもろくなります。長年放置されて神経を取った歯に適切な被せ物がされていない場合、ある日突然割れてしまうことがあります。歯根まで割れてしまうと、保存が難しくなります。
「もう遅い」ということはない ― でも早いほど選択肢は広い
ここまで読んで、「もう手遅れかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。しかし、来院を決めたその日が「始め直し」の日です。どんな状態でも、まず現状を正確に把握することが最初の一歩です。
当院では初診時に口腔内写真・パノラマX線などでお口全体のスクリーニングを行い、今の状態と今後の見通しを丁寧にご説明します。「何から手をつけるべきか」「緊急性が高いものはどれか」「費用はどのくらいかかるか」を正直にお伝えした上で、患者様が主体的に判断できるようにしています。
放置すればするほど治療は大掛かりになり、費用も時間もかかります。しかし「来ようと思った今日」が、一番早いタイミングです。
当院が長期放置の患者様に伝えていること
19年間の臨床の中で、長期放置の患者様に一度も怒ったことはありません。来てくださったことへの安堵しかありません。責めるのではなく、現状を整理して、一緒に前を向くことが歯科医師の仕事だと思っています。
「どんな状態でも受け入れてもらえるか不安」「怒られないか心配」という方も、安心してご来院ください。まず現状を把握するだけでも構いません。
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