保険診療でもマイクロスコープとラバーダムを使う理由― 根管治療に対する院長の哲学【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「え、保険でもマイクロスコープを使ってくれるんですか?」
初診の患者様から、このような驚きの声をいただくことがあります。現在、マイクロスコープとラバーダムを使った精密根管治療は、多くの歯科医院で自費診療として提供されています。費用は1根管あたり数万円から十数万円になることも珍しくありません。
当院は開業当初から、根管治療においては保険診療・自費診療を問わず、全症例にマイクロスコープとラバーダムを使用しています。この方針は今も変わりません。なぜそうしているのか、その理由をお伝えします。
根管治療の「精度の差」が、歯の寿命を決める
根管治療とは、虫歯や外傷などによって神経が感染・壊死した歯を残すための治療です。歯の根の中にある細い管(根管)の中をきれいにし、無菌状態で封鎖する処置です。
この治療の成否は、肉眼ではほぼ確認できない細部の作業精度にかかっています。根管は非常に複雑な形態をしており、分岐・湾曲・閉塞があることも珍しくありません。感染した組織や細菌を取り残してしまうと、治療後も感染が残存し、数年後に再発します。
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使うことで、根管内を最大20倍以上に拡大して確認しながら作業することができます。肉眼では見えなかった感染部位・根管の分岐・穿孔(穴)などを発見・対処できます。ラバーダムは治療中に唾液が根管に入るのを防ぐゴムのシートで、再感染リスクを大幅に下げる効果があります。
この2つを使うか使わないかで、治療の精度は根本的に変わります。そしてその差は、5年後・10年後の「その歯がまだ残っているかどうか」という結果に直結します。
「お金がある人だけ精密な治療を受けられる」に違和感があった
開業前から、私はひとつの違和感を持ち続けていました。根管治療は「歯を残すか失うか」を左右する、非常に重要な治療です。その治療の質が、患者様の経済的な事情によって変わってしまう。精密治療は自費でしか提供しないとすれば、費用を用意できない方は精度の低い治療しか受けられないことになります。
医療は本来、必要な人に必要な質で届けられるべきものです。少なくとも「根の治療をするかどうか」という基本的な局面において、経済状況によって治療の質に格差が生じるべきではないと考えました。
だから当院では、保険診療であっても全症例にマイクロスコープとラバーダムを使います。この方針は開業から変えていませんし、今後も変えるつもりはありません。
保険で精密に診るからこそ、本当に必要な自費治療に投資してほしい
ただしここには、もう一つの意図があります。
根管治療を保険で精密に行うことで、患者様の「限られた時間とお金」を節約します。その分を、本当に価値のある自費治療――長期的に歯を守るセラミック修復、噛み合わせを整える矯正治療、失った歯を補うインプラントなど――に使っていただきたいと考えています。
「根管治療だけで何十万円もかかってしまった」という状況では、その後の歯の管理に十分な投資ができなくなります。根の治療は「土台」です。土台に過剰なコストをかけるより、その上に建てる「家」をしっかりしたものにすることの方が、長期的には歯を守ることにつながります。
「再発する根管治療」から抜け出すために
「根管治療を何度繰り返しても、また膿んでしまう」という方が来院されることがあります。原因の多くは、初回の根管治療での感染の取り残しです。精度の低い治療が行われた歯は、被せ物をした後も内部で感染が続き、やがて再発します。
このような再治療(感染根管治療・再根管治療)こそ、マイクロスコープが最も力を発揮する場面です。前回の治療で残った感染物質・折れたファイル(治療器具)・見逃された根管などを、拡大視野で確認しながら対処することで、これまで解決できなかった問題に対処できるケースがあります。
他院で「もう治らない」「抜くしかない」と言われた歯でも、精密根管治療によって保存できる可能性がある場合があります。まずは一度ご相談ください。
まとめ
保険診療でもマイクロスコープとラバーダムを使う。これは当院にとって「サービス」ではなく、「医療として当然あるべき姿」です。すべての患者様が、経済状況に関わらず精度の高い根管治療を受けられること。そしてその信頼の上に、長期的なお口の健康管理を一緒に築いていくこと。それが当院の根管治療に対する変わらない姿勢です。
※症例の複雑さによっては、精密根管治療・マイクロスコープ根管治療として自費診療での対応をお願いするケースもあります。詳細は初診時にご説明します。
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