歯ぎしり・食いしばりで歯がすり減ってきた方へ ― 失われた噛み合わせを立て直すという選択【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(臨床歴19年・日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「以前より歯が短くなった気がする」「奥歯が平らにすり減ってきた」「歯がしみる」。長年の歯ぎしりや食いしばりで、歯がすり減ってきたことに気づく方は少なくありません。これを単なる見た目の問題と思って放っておく方も多いのですが、すり減りが進むということは、噛み合わせ全体が少しずつ失われているサインであることがあります。この記事では、すり減った歯が本当に意味していることと、失われた噛み合わせを立て直すという考え方をお伝えします。
歯がすり減るのは、何かが起きているサインです
歯がすり減る(咬耗)背景には、多くの場合、長年の歯ぎしりや食いしばりがあります。本来、上下の歯は食事や会話のとき以外は触れていないのが自然な状態ですが、無意識に強い力を歯にかけ続けると、歯は少しずつ削れて、短く、平らになっていきます。しみる、欠ける、といった症状を伴うこともあります。これは表面だけの問題ではなく、口全体に力の負担がかかっている結果なのです。
すり減りが進むと、噛み合わせ全体が失われていきます
歯が削れて低くなると、上下の歯が噛み合う高さやバランスが少しずつ変わっていきます。一本のすり減りが、隣の歯や反対側、さらには顎の関節へと影響を広げ、全体の噛み合わせが崩れていく——これは、一本ずつ起きているように見えて、実は口全体で進行している変化です(この仕組みは「噛み合わせ全体が崩れてきた方へ」で詳しくお伝えしています)。噛み合わせの高さが失われると、顔の下半分が縮んで見え、老けた印象につながることもあります。
「削れた所を詰める」だけでは、また繰り返します
すり減った歯に対して、その部分だけを詰めたり被せたりする対処は、一見すると自然な選択に見えます。けれど、すり減りを生んだ力そのものと、崩れた全体のバランスが残ったままだと、新しく入れた部分もまた削れたり壊れたりします。これは、これまでこの連載でお伝えしてきた「対症の繰り返しは安定しにくい」という話と、まったく同じ構図です。すり減りへの対応で本当に大切なのは、削れた一点ではなく、力の原因と口全体を見ることです。
立て直すという考え方 ― 力を抑え、噛み合わせを再構成する
失われた噛み合わせを立て直すには、大きく二つの軸があります。
- 力をコントロールする:マウスピース(ナイトガード)で歯を守る、日中の食いしばりに気づいて力を抜く、といった対応で、これ以上のすり減りを抑えます
- 失われた噛み合わせを取り戻す:必要に応じて、補綴や矯正を組み合わせ、削れて低くなった噛み合わせの高さとバランスを設計し直します
このとき大切なのは、最終的な噛み合わせのゴールから逆算して全体を設計することです。私は日本顎咬合学会の指導医として、噛み合わせを基準に口全体を立て直すことを専門にしてきました。すり減りは、まさにこの「全体から診る」ことが力を発揮する領域です。
ただし、すぐに大きな治療が必要とは限りません
誤解のないようにお伝えします。すり減りが気になるからといって、全員にすぐ大がかりな治療が必要なわけではありません。程度が軽ければ、まず力のコントロールと経過の確認だけで十分なこともあります。要らない方には要らないと正直にお伝えします。一方で、すでにすり減りが進み、噛み合わせの崩れが始まっている場合は、早めに手を打つことで、その進行を緩めることができます。早い段階ほど、残せるものは多く、治療もシンプルに済みます。
放置して失うもの
いちど削れた歯は、自然に元の高さには戻りません。すり減りが進むと、やがて歯の神経に近づいてしみが強くなったり、もろくなって割れたりすることがあり、最終的に口全体の大がかりな立て直しが必要になることもあります。だからこそ、「ただのすり減り」と軽く見ず、早めに全体の状態を知っておく価値があるのです。
すり減りが気になる方へ
私の目標は、患者さんのお口を、人生の最後まで——大げさに言えば、天国まで——良い状態で使い続けていただくことです。すり減りは、その途中で起きる、口全体からの大切なサインです。気になる方は、まず力の状態と噛み合わせがどうなっているかを、全体として診させてください。当院では現状を正直にお伝えし、必要な範囲をご提案します。他院での診断に迷われている方のセカンドオピニオンも歓迎していますし、遠方からのご相談もお受けしています。実際の治療例は症例集、費用は料金表にまとめています。ご相談はお問い合わせから承ります。