歯周病の治療をしているのに、骨が下がり続ける ― 「炎症」と「噛む力」が重なると何が起きるか【桜新町の歯科医師が解説】
こもり歯科クリニック 院長 小森 真樹(臨床歴19年・日本顎咬合学会 指導医・桜新町)
「歯石取りにはきちんと通っているのに、歯ぐきの検査の数字が良くならない」「特定の歯だけがぐらぐらしてきた」「歯周病と言われたけれど、食いしばりのことは何も言われなかった」。こうしたご相談をよくいただきます。歯周病は細菌による病気ですが、私は診療のなかで、そこに噛む力が重なっているケースを数多く見てきました。2026年、東京科学大学の研究グループが、この「炎症と力の重なり」を裏づける研究を発表しています。この記事では、その内容と、私が歯周病と噛み合わせを一緒に診ている理由をお伝えします。
こんな状態に、心当たりはありませんか
歯周病の治療やクリーニングを続けているのに、一部の歯だけ改善しない
特定の歯がぐらぐらする、噛むと浮いたような感じがする
朝起きたときに顎が疲れている、歯ぎしりを指摘されたことがある
歯がすり減ってきた、詰め物がよく取れる
奥歯を抜いたまま、片側ばかりで噛んでいる
歯ぐきが下がって、歯が長く見えるようになった
こうした症状は、歯周病に「力」の問題が重なっているサインかもしれません。
歯周病は「細菌の病気」。では、噛む力は関係ないのか
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間にたまった細菌によって歯ぐきに炎症が起き、やがて歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていく病気です。基本の治療は、歯石や細菌の塊を取り除き、毎日の歯みがきで炎症を抑えることです。治療の考え方は歯周病は治る?進行度別の回復の可能性でも詳しくお伝えしています。
一方で、食いしばりや歯ぎしり、噛み合わせのずれによって特定の歯に強すぎる力がかかり続けると、歯を支える組織が傷みます。これを専門的には咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)と呼びます。「強い力が歯周病を悪くするのでは」という考え方は、歯科の世界では半世紀以上前からありました。ただ、その仕組みははっきりしていませんでした。
2026年の研究でわかったこと
東京科学大学の研究グループは、マウスを使って次の4つの状態を比べました(Journal of Clinical Periodontology、2026年)。
何もしない
歯周病だけを起こす
強すぎる噛み合わせ(一部の歯だけが強く当たる状態)だけを作る
歯周病と強すぎる噛み合わせの両方
結果は次のとおりです。
強すぎる噛み合わせだけを8週間続けても、骨の吸収ははっきりとは起きなかった
しかし歯周病がある状態に強すぎる噛み合わせが加わると、骨の吸収が大きくなった
両方がそろった骨の組織では、炎症や骨の代謝に関わる遺伝子の働きが強まっていた
つまり、力だけでも、炎症だけでもなく、二つが重なったときに骨の破壊が進みやすくなるという関連が示されたことになります。
なお、これはマウスでの実験です。人の口の中でもまったく同じことが起きると言い切ることはできません。それでも、私たちが診療室で感じてきた実感と、よく一致する結果だと受け止めています。
「歯周病だけ」「噛み合わせだけ」では止まらない理由
たとえるなら、歯周病の炎症は「乾いた枯れ草」、強すぎる噛む力は「風」のようなものです。枯れ草がなければ、風が吹いても火は広がりません。けれど枯れ草があるところに風が吹き続けると、火は一気に広がります。
診療の場面に置きかえると、次のようになります。
歯石を取って炎症を抑えても、特定の歯に力が集中したままでは、その歯だけ骨が下がり続けることがある
逆に、噛み合わせだけを調整しても、炎症が残っていれば骨の破壊は止まりにくい
だから私は、歯周病の方の口の中を見るときに、歯ぐきの検査と同時に、噛み合わせ、すり減り方、歯の揺れ方、食いしばりの有無もあわせて確認しています。力のかかり方については咬合力管理とは?、食いしばりそのものについては歯の食いしばりの原因とはでお伝えしています。
当院の考え方 ― 炎症と力を、同じ地図の上で診る
当院では、まず歯周病の基本治療で炎症を抑えることを優先します。そのうえで、口腔内スキャナーやCT、顎の動きの記録を「判断のための道具」として使い、どの歯にどんな力がかかっているかを確認します。詳しくは歯周病治療のページもご覧ください。
力への対応は、その方の状態によってさまざまです。
夜間のマウスピースで、食いしばりの力を和らげる
一部だけ強く当たっている歯を、わずかに調整する
失った歯を補って、残った歯の負担を減らす(歯を抜いたまま放置していませんか)
歯並び・噛み合わせそのものに原因がある場合は、矯正治療を含めて検討する(矯正歯科のページ)
もちろん、全員に大がかりな治療が必要なわけではありません。炎症を抑えるだけで十分に安定する方も多くいらっしゃいますし、必要のない方には必要ないとお伝えします。そのうえで、一本ずつの治療では安定しにくい方には、噛み合わせ全体が崩れてきた方へでお話ししているような、口全体を見渡した治療計画をご提案しています。
まとめ
歯周病は細菌の病気だが、強すぎる噛む力が重なると骨の破壊が進みやすくなる可能性がある
2026年のマウスの研究では、強すぎる噛み合わせだけでは骨は溶けにくい一方、歯周病があると骨の吸収を強める関連が示された
歯周病の治療を続けても改善しない歯があるときは、「力」の問題を確認する価値がある
炎症と力を同時に診ることが、歯を長く残すための近道になる
歯周病の治療を続けているのに良くならない歯がある方、歯のぐらつきや歯ぐきの下がりが気になる方は、一度ご相談ください。歯ぐきが下がってきたと感じたら、歯周病の痛みが治らないときの記事もあわせて参考にしてください。他院で治療中の方のセカンドオピニオンも歓迎していますし、遠方からのご相談もお受けしています。噛み合わせ全体の精密検査・ご相談は自費診療として行っており、費用は料金表にまとめています。ご相談はお問い合わせから承ります。
参考文献:Tsuchiya Y, Ohsugi Y, Hirota T, et al. Traumatic Occlusion Exacerbates Bone Resorption by Modifying Gene Expression in the Bone Tissue of Ligature-Induced Periodontitis in Mice. Journal of Clinical Periodontology. 2026;53(6):838-848. doi:10.1111/jcpe.70112